特別な支援を要する児童とICT「過集中」
原版(紙版):2023年12月21日(木)発行
Web版:2024年01月06日(土)作成
「過集中(かしゅうちゅう)」がある子は、ICTと相性が良すぎる
過集中しやすいタイプの子
「日常生活に支障が出るほど、過剰に集中してしまうこと」を「過集中」と言います。 例えば「寝食を忘れて、好きなことに没頭してしまう」とか「声をかけられても気づかないぐらい、目の前の作業に没頭してしまう」などの事例です。 自閉スペクトラム症(ASD)の子や、注意欠如多動症(ADHD)の子に、しばしばみられます。
自閉スペクトラム症(ASD)の子は、「好きなこと・興味のあること」に「過集中」しやすい特性(神経の多様性)を持って生まれてきています。 いわゆる「恐竜博士」とか「昆虫博士」とか「自動車博士」みたいなタイプの子です。 何かのコレクションに夢中になったり、工作などのモノづくりに熱中したりする子もいます。
注意欠如多動症(ADHD)の子の中にも、「過集中」しやすいタイプがいます。 「気が散りやすい」と表現されることが多い特性なので、「集中」とは真逆(まぎゃく)な印象があるかもしれません。 ですが「注意を切り替えることが苦手な特性」なので、「気が散る(うまく集中できない)」と「過集中(うまく集中を止められない)」の、相反する症状が出てくる場合があるのです。
ICTと相性が良すぎる過集中
いずれにせよ「過集中」がある子は、ICTとの相性が良すぎます。 良い方向に働けば、プログラマー(システムエンジニア)などの「マニアックな職業」への進路が開けていきます。 ですが悪い方向に働けば、「ゲーム依存」とか「引きこもり」などに陥る危険性があります。
相性が悪い方向で働き始めただけでも、さまざまな問題行動が起きてきます。 例えば「母親が『ごはんよ~!』と呼びかけても、YouTubeに夢中になってしまう行動」とか、「ゲームで毎日のように夜更かしをしてしまう行動」などです。 「ゲーム依存」や「引きこもり」ほど深刻では無いかもしれませんが、すぐに何かの手立てが必要です。
しかも現代の社会は、ICTと全く付き合わずに生活することが不可能です。 LINEもスマホも使わないで社会生活を営むことは、不可能ではありませんが、大きな制約を受けます。 オフィス系アプリ(文書作成や表計算など)や生成AIなどのICTを全く使えないまま就職することも、困難になっていくでしょう。
「ICTとの付き合い方」を学校で教えよう
学校で教え育むべき技能
「過集中」がある子に対しては、どこかで「ICTとの付き合い方」を身に付けさせる必要があります。 情報通信機器と、「ほどよい距離感」で付き合える技能とでも言うべきでしょうか。 いわゆる情報モラル教育や、デジタルシチズンシップ教育で、教え育むべき技能です。
「ICTとの付き合い方」を教え育むなら、やはり「学校しかない」でしょう。 残念ながら家庭では上手く対応できないと思いますので、公教育の出番です。 無制限(無法状態!?)でスマホやタブレットを買い与えてしまう家庭や、極端に遠ざけて成長の機会を奪ってしまうような家庭が多いからです。
ある支援学級での実践
休み時間を活用して、何とか「ICTとの付き合い方」を教えようとしている支援学級を知っています。 ある程度自由にタブレットを使わせておいて、チャイムですぐ止める訓練をしているのです。 もちろん個人面談で保護者の了承を得ていますし、個別支援計画にも載せています。
正直うまくいかない事の方が多く、悪戦苦闘の毎日を重ねているようです。 その日のストレスの多い・少ないで変わりますが、しばしばチャイムが鳴ってもすぐに止められないことができません。 時には「免停」と称して、タブレットを数日間取り上げる指導もしています。