http://www.yamadarn.com/ コラム「学校でのICT活用について考える」

学校でのICT活用や、GIGAスクール構想についての覚書(おぼえがき)です。 勤務校で書いた自己研修通信から再構成しました。 内容の一部は、インスタグラムにも投稿しています。

特別な支援を要する児童とICT「そとにある」

原版(紙版):2024年01月04日(木)発行

Web版:2025年01月03日(金)作成

「なか」と「そと」、どちらにあるのでしょうか?

環境から生じる困難

「障害」は、「どこ」にあるのでしょうか? 「いわゆる障害者」の「なか」にあるのでしょうか? それとも「そと(周り)」にあるのでしょうか?

わかりやすくするために「足が不自由で、車いすを使っている人」の場合で考えてみましょう。 この人が公共施設の玄関で、段差を乗り越えることができないでいるとしたら、どうでしょうか? 「障害」は「なか」と「そと」の、どちらにあるのでしょうか?

個人的には「そと(周り)に障害がある」と考えています。 もしも「バリアフリーの玄関」があれば、この人は段差に困ることなく公共施設に入っていけます。 しかし「段差のある玄関」という環境のせいで、困難が生じてしまっています。

「よくない環境」が「よい環境」に変われば、この人の「困難」は解消されます。 「段差のある玄関」が「バリアフリーの玄関」に変われば、「公共施設に入れない(困った)」が解消されます。 解消のために努力すべきなのは「環境(を提供する自治体)」の側であって、「車いすユーザー」の側ではありません。

環境の被害者

その意味で「障害」は「障害者のそとにある」と山田は考えます。 「障害者」=「よくない環境の被害者」みたいなイメージです。 「障害者」は「障害を持っている人」ではなく、「目の前にある障害に苦しめられている人」だと考えています。

「いわゆる障害者」は、「障害を持っている人」ではない。 「いわゆる障害者」は、「目の前にある障害に苦しめられている人」である。

ですが「いわゆる障害者」の側にも、ある程度の「自助努力(自分で「環境」を改善する努力)」が必要なのが「悲しい現実」です。 自治体の予算などの事情で、「よい環境」が提供されていないケースも多いからです。 「車いすユーザー」の場合で言えば、「近くの人に協力をお願いする」「家族に同行してもらう」などをする必要があります。

「いわゆる発達障害」とICT

特性と環境の不適応で生じる困難

同じように「いわゆる発達障害」についても、「障害はそと(周り)にある」と考えています。 生まれ持った「特性」と、周りの「環境」が噛み合わないこと(不適応を起こすこと)で、「困難」が生じているからです。 ここでいう「困難(できない・こまった)」が、「いわゆる発達障害」です。

「特性」×「環境」=「困難」

「特性」を変えることはできませんが、「環境」なら変えられます。 「よくない環境」を「よい環境」に変えれば、「いわゆる発達障害」を減らすことができます。 「特性」を生まれ持った児童は、支援学級はもちろん、通常学級にもいますから、すべての担任が「環境調整」や「合理的な配慮」を考えていく必要があります。

ただし「特性」を生まれ持った子にも、ある程度の「自助努力(自分で「環境」を改善する努力)」が必要なのが「悲しい現実」です。 「発達障害」や「特別支援教育」の考え方について、まだ十分に社会へ浸透していないからです。 悲しい現実ではありますが、ある程度の「自助努力」がなければ、将来の自立は難しいでしょう。

教師の役割

以上を踏まえると、私たち教師の役割は2つになります。 1つ目は授業や学級経営で「よい環境」をつくることです。 2つ目は授業や生活指導を通して、「特性」を持った児童に「自助努力するための手段」を身に付けさせることです。

そしてICTは、この2つの役割を助けてくれます。 ICTは授業や学級経営を助けてくれます。 ICTは「自助努力」の手段としても有効です。

ICTの助け

例えば「児童用デジタル教科書」です。 「紙面」を拡大できるので、視覚障害に対応できます。 「ふりがな(ルビ)あり」や「分かち書き」に表示を切り替えることもできるので、知的障害にも対応できます。

例えばGIGA端末での「文字入力」です。 「キーボード入力」や「音声入力」があるので、発達性協調運動障害(文字の手書きなど、手先の操作が困難な「特性」)に対応できます。 「予測変換」もあるので、手先の操作回数(キーを押す回数)自体を減らすこともできます。

例えばPowerPointやロイロノートなどを使った「スライド」です。 図や写真などの「視覚的な資料」や、作業手順の「箇条書き」を、すばやく提示できます。 口頭の説明だけでは伝わりづらい子や、見通しが持てないと不安になる子への助けになります。

例えば「リマインダー」です。 予定(スケジュール)や、やること(タスク)を、指定した日時に通知する機能です。 「リマインダー」をパソコンやスマホで使えるように育てていけば、「忘れ物」や「うっかり約束を忘れる」などが多い子(ADHDなど)の、将来の自立を助けることができます。