http://www.yamadarn.com/ コラム「学校でのICT活用について考える」

学校でのICT活用や、GIGAスクール構想についての覚書(おぼえがき)です。 勤務校で書いた自己研修通信から再構成しました。 内容の一部は、インスタグラムにも投稿しています。

特別な支援を要する児童とICT「指導の個別化」

原版(紙版):2024年01月07日(日)発行

Web版:2025年01月03日(金)作成

「特性の強さ」と「困難の大きさ」

誤解している人が多いように思うのですが、「特性の強さ」と「困難の大きさ」は、必ずしも「イコール」ではありません。 「特性が強い」のに「困難は小さい」という子もいます。 「特性が弱い」のに「困難が大きい」という子もいます。

大切なのは「環境」です。 その子にとって「よい環境」であれば、「特性が強く」ても「困難が小さく」なります。 その子にとって「よくない環境」であれば、「特性が弱く」ても「困難が大きく」なります。

ですから学校では、授業や学級経営が大切です。 「よい環境」を生むような授業・生活指導・教室設営などを続けていけば、「困難」が小さくなっていくからです。 反対に「よくない環境」を生むようなものが続くと、「困難」が大きくなっていきます。

通常学級と支援学級

ふだんあまり意識していないかもしれませんが、通常学級にも「特性を持った子」がいます。 授業や学級経営が「よい環境」を生んでいれば、その子たちに「困難」が生じることはありません。 反対に授業や学級経営が「よくない環境」を生んでしまうと、その子たちに「困難」が生じてしまいます。

もしも「困難」が生じてしまった場合、できるだけ早く授業や学級経営を変える必要があります。 「ユニバーサル・デザイン」を取り入れた全体指導をするとか、さりげなく個別支援を入れるとか、様々な対応が考えられます。 あの手・この手を試してみて、それでも上手くいかなければ、ケース会議などで対応を考えていくことになります。

特別支援学級でも、話は同じです。 授業・生活指導・教室設営などが「よい環境」を生んでいれば「困難」は小さくなっていきます。 それらが反対に「よくない環境」を生んでしまうようなものならば、「困難」が大きくなっていってしまいます。

1人1人ちがった「困難」

ただし同じ診断名や、同じ障害種別であっても、1人1人ちがった「困難」に直面します。 誤解している人が多いように思うのですが、同じ「特性」であっても「困難」には個人差があります。 例えば、診断名が「自閉スペクトラム症(ASD)」であっても、以下のように様々なタイプの子がいます。

「自閉スペクトラム症(ASD)」の実例
人付き合いが苦手なので、1人でいることが好きな子
しばしば失言を繰り返してしまうけど、人付き合いが好きな子
適切な人付き合いができるが、気を使いすぎて常に疲れてしまう子
自ら集団を仕切ることで、対人関係の予測不能を減らそうとする子
常に特定の誰かに従うことで、対人関係の予測不能を減らそうとする子
物を集めることに「こだわり」がある子(部屋の中が集めた物で散らかっている)
物を持たないことに「こだわり」がある子(部屋の中が殺風景でガランとしている)
授業に参加することについて、脅迫観念に近い「こだわり」がある子
学習内容によって、授業に参加したり、しなかったりする子(興味のある内容でなければ集中できない子)

ですから特別支援学級の授業は、一筋縄では行きません。 1人1人の「困難の実態」を見取った上で、1人1人に合った「授業展開」「環境調整」「合理的な配慮」を考えていく必要があるからです。 中には「少人数であっても、一斉授業が厳しい子(限りなくマン・ツー・マンを要する子)」もいるので、担任は大いに悩みます。

指導の個別化

このような「特性を持った子への対応」を、学習指導要領は「指導の個別化」と呼んでいます。 通常学級での対応も、特別支援学級での対応も、どちらもまとめて「指導の個別化」に含めているようなのです。 「個別最適な学び」には2種類あって、そのうちの1つがこの「指導の個別化」です。

「個別最適な学び」
(1)「指導の個別化」と「学習の個性化」を学習者視点から整理した概念
(2)これを教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」
「指導の個別化」
(1)教師が支援の必要な子供に より重点的な指導を行うことなどで、効果的な指導を実現すること
(2)子供1人1人の特性や学習進度、学習到達度に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うこと

ICTは「指導の個別化」を達成するためにも有効です。 指導方法や、教材や、学習時間などの「選択の幅(はば)」を広げることができるからです。 また1人1人の特性や、学習進度や、学習到達度などを見取るための時間や労力を、ある程度減らしてくれるからです。